2021年9月19日日曜日

恒大倒産は習計画の一環⁉️ 中国で進められる社会主義復帰は大衆中心主義❣️ 対照的に日米英で進む共産主義は私権独裁路線だ‼️ 田中宇の切れ味が戻ってきたようで小気味良い❣️

 


http://tanakanews.com/210917china.htm

より転載します。

中国を社会主義に戻す習近平

2021年9月17日   田中 宇


この記事は「鄧小平のリベラル路線を脱する習近平の中国」(田中宇プラス)の続きです。

中国の最大級の不動産会社の一つである恒大集団(エバーグランデ)が倒産に向かっている。恒大は9月8日に債券を格下げされ、それまでの経営難が倒産への道へと事態が悪化した。恒大は中国の不動産業界の中でも負債が多く2兆元(3000億ドル)あり、倒産すれば中国経済に大打撃を与えると報じられ「中国のリーマン」と呼ばれている(2008年に倒産したリーマンブラザーズの負債は6000億ドル)。中国政府が恒大を救済するはずと期待する向きもあったが、中国政府は9月14日に「恒大は9月20日の利払いを履行しない(政府による救済はない)」と表明した。恒大の倒産が確定した。 (China's house of cards: Evergrande threatens wider real estate market) (China's "Lehman Moment" Arrives On 13th Anniversary Of Lehman Bankruptcy: Beijing Tells Banks Evergrande Won't Pay Interest

リーマン倒産は米国の金融システムを破壊した。自由な金融市場は失われ、米連銀など米欧日の中銀群が詐欺的で不健全なQE策で通貨を過剰発行し、株や債券の相場を不正につり上げ続けてバブルを延命させる今の事態になった。米国の金融覇権は見かけ上(報道上)問題ないと報じられるが実際はすでに「死に体」なQE依存の植物人間で、中銀群がQEを続けられなくなると巨大な金融崩壊が起きて終わりになる。恒大が「中国のリーマン」なら、恒大を倒産させると中国経済が「死に体」の崩壊状態になる。中国ではバブル状態の不動産部門が経済全体の3割を占める。鄧小平以来、共産党政権の正統性は中国を経済成長させることにあった。恒大の倒産は、習近平と中共を危うくするはずだ。なぜ習近平は恒大を救済しないのか。 (Goldman Sachs, JPMorgan warn of Evergrande's debt woes spillover risks) (Evergrande: Why the Chinese property giant is close to collapse

・・・実のところ、この考え方は間違っている。これまで何度か書いたように、習近平は、中国の金融バブルや金儲け至上主義を積極的に潰したいと考えている。彼は、すでに自分の独裁体制が確立しているので、中国経済の成長を共産党政権の正統性としていた鄧小平時代の体制を壊している。習近平は、恒大集団を倒産させ、投資目的で住宅を買って儲けてきた中国の都会の裕福層を大損させることで、貧富格差の拡大に怒っている農村の貧困層の溜飲を下げ、大衆から自分への支持を強めさせる毛沢東再演のポピュリズムをやりたがっている。恒大は、習近平と中共の独裁体制を強化するために「制御崩壊」させられ、倒産に追い込まれていく。 (Why China Could Seek “Controlled Detonation” for Troubled Developer Evergrande

恒大が経営難に追い込まれたのは最近でない。昨年夏ごろから中共は中国の不動産バブルを潰す政策(三条紅線など)を強化し、不動産会社は負債を増やせなくなった。恒大は所有物件を投げ売りして資金繰りを改善しようとしたが不十分に終わり、経営難から脱せないまま倒産に向かっている。恒大は、習近平の中共によって経営破綻に追い込まれている。中共は、恒大だけでなく民間不動産会社の全体を潰しにかかっている。中共から資金の取得を制限されて民間企業が買えなくなった不動産を、国有企業の不動産会社が買っている(中国ではすべての土地が国有で、売買されるのは土地の所有権でなく使用権)。中共は不動産バブルを潰すのだと言いつつ、実は民間企業だけ経営難に陥らせ、不動産業界の国有化を進めている。 (China's property bubble may be about to burst, and it could cost Australia dearly) (China’s Crackdown on The Private Sector Raises Risks

中共は不動産業界だけでなく、インターネットを使ったサービス産業の分野などでも、アリババや滴滴(DiDi)といった民間の大手企業に言いがかりをつけて経営者を弾圧したり事業を潰し、それらの分野を国有化しようとしている。2013年に習近平が権力を握るまでの中国は、1980年代からの鄧小平体制が続いていた。鄧小平体制下では経済が自由市場で、民間企業が自由な活動を許され、税金もほとんどなく、事実上の資本主義経済(建前としては社会主義市場経済)だった。最近の記事に書いたように、習近平は就任後まず自分の権力を強化して誰も反対できない独裁体制を築いた後、昨年からいくつかの分野で民間企業への規制を強め、非公式に中国経済の再国有化を手がけている。習近平は、鄧小平が資本主義化した中国経済を、再び社会主義に戻そうとしている。(本物の社会主義でなく、ポピュリズム的な「社会主義っぽい体制」であろうが) (鄧小平のリベラル路線を脱する習近平の中国

中国経済は毛沢東らによって社会主義化されたが、毛沢東は大躍進や文化大革命などの政策で中国を経済的・社会的に潰してしまったため、毛沢東の死後に権力を握った鄧小平は資本主義の要素を再導入し、経済を見事に蘇生させて中国を経済大国にした(鄧小平は後継者として江沢民と胡錦涛を指名し、彼らが鄧小平の死後に路線を忠実に継承した)。習近平は、資本主義的な鄧小平路線を、中国が経済大国になるための方便としてとらえているらしく、本来の共産党政権の中国は社会主義に戻るべきだと考えている。中国は鄧小平路線を40年ほどやって十分に経済発展して世界有数の大国になったのだから、もう方便としての資本主義を捨て、中国経済を本来採るべき道の社会主義に戻すのが良い、と習近平は考えている。

それで近年の中共は、最も華やかなネットのサービス産業を皮切りに大手の民間企業を弾圧し、業界の再国有化・社会主義化を始めている。中共は、学習塾など教育産業でも利益目的の民間企業を禁止した。マカオのカジノも弾圧されている。そして、金儲けの中心地である不動産業界においても、恒大など民間企業の資金調達を制限して潰していき、産業の再国有化・社会主義化を手がけている。恒大を潰すのは、習近平が中国を社会主義に戻す「再革命」の一部である。 (Macau casinos suffer after Beijing officials unveiled plans for crackdown on industry in world's biggest gambling city) (Macau Casino Stocks Tumble As Beijing Launches Crackdown On World's Biggest Gambling Hub

「社会主義なんてうまくいくわけない。社会主義をやった毛沢東もソ連も失敗して潰れた」とか「進取の気性、儲けてやろうという気概がない小役人的な国有企業にやらせてもうまくいかない」と考える人が多いだろう。だが、毛沢東やソ連による社会主義の試みは、中国やロシアが未発展の段階で行われて失敗した。今回の習近平による再社会主義化は、中国が十分に経済発展して世界的な強国・アジアの地域覇権国になった状態で試みられる。社会主義が「成熟した資本主義の後に来るもの」であるとしたら、資本主義が成熟する前に社会主義をやろうとした毛沢東やソ連が失敗したのは当然だ。今の中国は、毛沢東の失敗後、鄧小平が敷いた40年間の資本主義路線をやってかなり成熟した後、習近平が権力をとって再び社会主義っぽいことを試みようとしている。 (Chinese Data Dump Confirms Hard Landing Imminent) (China's Lehman Brothers moment?

毛沢東やソ連の失敗によって、社会主義や共産主義は詐欺や妄想だという話が世界的に定着している。世界的に「最もすぐれている経済体制はリベラル・放任的な資本主義だ」という話になっている。だが、もし今後、習近平が中国経済を再国有化・再社会主義化していってそれが失敗せず、意外と成功してしまったらどうなるか。中国の再社会主義化が成功する半面、米欧の資本主義がQEバブルの崩壊で失敗していくとどうなるか。資本主義と社会主義の逆転、米国と中国の逆転が起こりかねない。 (米国側が自滅する米中分離

習近平による中国の再社会主義化は(演技として)うまくいく可能性があり、思想史上も転換になりうる。最近は日本の左翼の多くがリベラル詐欺の軍産マスコミのプロパガンダを軽信して中国敵視になっているが、習近平の社会主義が「成功」したらどうするんだという感じだ。マスコミが無視するので、左翼も無視するんだろうけど。左翼は教条的・軽信的で、地球温暖化や新型コロナの詐欺も積極的に軽信してしまう。貧富格差が拡大するばかりの米国で、今は中国敵視の左翼が、習近平の社会主義化を見ていずれ親中国に転じるかもしれない。(社会主義や共産主義は、最初から「革命家」をかたる詐欺師たちによる詐欺だった可能性が高い。マルクスだけでなくケインズやレーガノミクス、市場原理主義、MMTなど、経済学は悪く言って「詐欺」、良く言って「試論」だ)。 (米国を自滅させる「文化大革命」) (覚醒運動を過激化し米国を壊す諜報界

恒大が倒産し、不動産業界を皮切りに中国経済がバブル崩壊する可能性が高まっている。習近平が中国経済を自滅させる、と喧伝されている。しかし全体としてみると習近平の中共は最近どんどん強気になり、株価が暴落するのもかまわずいろんな業界の民間企業をへこませている。政治的にも、米国が軍艦を南シナ海に派遣したら対抗して中国が軍艦をアラスカ沖に派遣したりしている。こんな強気は史上初だ。自滅しそうな感じはまったくない。鄧小平路線では経済成長=株価の上昇が中共支配の正統性だったが、習近平はすでにそれを捨てている。中共の新しい正統性は、株や不動産などでボロ儲けしていた裕福層をへこませ、人民の大半を占める貧困層が貧富格差に苦しむ状態を終わらせることだ。以前と正反対に、アリババや恒大をいじめて株や不動産を暴落させることが習近平独裁の正統性になっている。中国経済(というより金融バブル)の自滅は習近平を強化する。 (US Coast Guard spots Chinese warships off Alaska

中共は最近、は銀行界を動かしてきた党幹部たちを汚職容疑で次々と逮捕したりもしている。銀行界は国有であり、これは民間企業潰しと違う。恒大の倒産を皮切りとして銀行界に連鎖破綻が広がってもかまわないかのようだ。これは多分、中国が通貨のデジタル化において世界最先端を行っていることと関係している。 ("Several Senior Executives" From Chinese Banks Investigated And Arrested In Recent Weeks, Global Times Reports) (通貨デジタル化の国際政治

通貨をデジタル化して紙幣や貨幣を廃止すると、紙幣や貨幣の管理を担当していた銀行界の存在意義が失われ、銀行が業界ごと潰れてもかまわないことになる。米国は銀行界の政治力が強いのでドルのデジタル化が進まず、対米従属の欧州や日本でも同様だ。対照的に中国は、共産党の独裁体制を強めるために、人々のお金の利用をすべて監視できる通貨のデジタル化がうってつけだ。コロナの追跡アプリと組み合わせて完璧な人民監視ができる。習近平は、恒大を皮切りに銀行界を潰し、それを口実に、今は不評な部分がある通貨のデジタル化を進めるかもしれない。 (ドル崩壊の前に多極化が進む

今後の中国の金融バブルの崩壊が激しいと、欧米日も巻き込まれ、中国発の世界金融危機になっていくかもしれない。今のところ、恒大の債務の債権者のほとんどはオフショアも含め中国人だろうから、中国の金融バブル崩壊が世界化する可能性は低い。だが中国の金融危機が長引くと、どうなるかわからない。コロナ危機は当初、中国だけを潰すはずだったのが、間もなくウイルスが世界に広がり、むしろアングロサクソンなど米欧を潰す展開になり、相対的に中国を有利にする流れになっている。これからの中国の金融危機も、これと同じ流れになるかもしれない。 (アングロサクソンを自滅させるコロナ危機

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