日米共同声明 約半世紀ぶりに台湾に言及 中国を強くけん制

菅総理大臣とアメリカのバイデン大統領は、日米首脳会談を受けて共同声明を発表しました。中国を強くけん制する内容となっていて、およそ半世紀ぶりに台湾に言及し、香港や新疆ウイグル自治区の人権状況に対し、深刻な懸念を共有するとしています。

共同声明で、日米両国は、日米同盟が揺るぎないものだとして、自由で開かれたインド太平洋を推進するとともに、航行や上空飛行の自由を含む海洋における共通の規範を推進するとしています。

そして、ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動に対する懸念を共有し、日米両国は、東シナ海でのあらゆる一方的な現状変更の試みに反対するとともに、南シナ海での中国の不法な海洋権益に関する主張や活動への反対を表明するとしています。

また、中国が「核心的利益」と位置づける台湾をめぐり「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と明記しました。

首脳会談の共同声明で台湾に言及したのは、日中国交正常化前の1969年の佐藤総理大臣とニクソン大統領の会談以来、およそ半世紀ぶりです。
また日米両国は、香港および新疆ウイグル自治区の人権状況への深刻な懸念を共有するとした一方、中国との率直な対話の重要性を認識し、直接、懸念を伝達するとしたうえで、共通の利益を有する分野で、中国と協働する必要性を認識したとしています。

また安全保障をめぐり、日本は、日米同盟および地域の安全保障を一層強化するため、みずからの防衛力を強化する方針を示したのに対し、アメリカは、核を含むあらゆる種類の能力を用いた日本防衛への揺るぎない支持を示し、沖縄県の尖閣諸島が日米安全保障条約第5条の適用対象であると再確認したとしています。

また、北朝鮮の完全な非核化に向けて、国際社会による国連安保理決議の完全な履行が必要だと指摘したほか、拉致問題の即時解決へのアメリカのコミットメントを再確認したとしています。
世界的に不足している半導体などのサプライチェーンをめぐっては、国家主導で生産力の強化を図る中国との競争を念頭に両国の安全と繁栄に不可欠な重要技術を育成・保護しつつ、半導体を含む機微なサプライチェーンについても連携するとしています。

気候変動の分野では、気候危機は、世界にとって生存に関わる脅威であることを認識し、日米両国は、この危機と闘うための世界の取り組みを主導していくとしています。

そして、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」に整合的な形で2030年までに確固たる行動をとるとしています。

さらに、新型コロナウイルスの感染拡大について日米両国は、パンデミックを防ぐ能力を強化するとともに、パンデミックを終わらせるため、世界的なワクチンの供給と製造で協力するとしています。

東京オリンピック・パラリンピックについて、バイデン大統領は、この夏、安全・安心な大会を開催するための菅総理大臣の努力を支持するとしています。

台湾「心からの歓迎と感謝」

日米首脳が共同声明で台湾に言及したことについて、台湾総統府の張惇涵報道官は「アメリカと日本が台湾海峡の平和と安定を重視していることに感謝し、評価する」というコメントを発表しました。

張報道官は「台湾海峡の平和と安定はすでに海峡両岸の関係という範ちゅうを超えて、インド太平洋地域、ひいては全世界の焦点になっている。われわれは、北京当局が地域の一員としての責任を尽くして、台湾海峡および地域の安全に前向きな貢献をともにするよう期待する」と呼びかけました。

また、台湾の外交部も「心からの歓迎と感謝を表す」というコメントを発表しました。

この中で外交部は「台湾は第1列島線の要に位置し、地域の安定と繁栄の鍵であり続けるが、このところ地域の国々が直面しているのと同様の圧力や侵略の脅威を感じている」という認識を示しました。

そして「アメリカと日本が地域の安全に関する現状を懸念していることをうれしく思う。米日および理念の近いほかの国々と緊密に協力しながら、民主制度やルールに基づく国際秩序を守り抜き、インド太平洋地域の平和と安定と繁栄を守る」としています。

台湾の主要なメディアは日米首脳会談とその後の共同記者会見や共同声明について詳しく報じています。

米 中国大使館「強い不満と断固とした反対を表明」

日米首脳の共同声明についてアメリカにある中国大使館は記者の質問に答える形で報道官の談話を発表し「台湾と香港、新疆ウイグル自治区に関わる問題は中国の内政であり、東シナ海と南シナ海は中国の領土と主権、海洋権益に関わるもので、干渉することは許さない。われわれは強い不満と断固とした反対を表明する。中国は国家の主権と安全、発展の利益を断固として守る」と強く反発しました。

そのうえで「2国間の関係の範囲を完全に超えており、第三者の利益や、アジア太平洋地域の平和と安定を損なうものだ。時代に逆行し、地域の人々の心に背こうとする企ては自身を傷つける結果になるだろう」としています。

駐日中国大使館「日米双方に厳正な申し入れ行った」

日米首脳会談の共同声明について東京にある中国大使館は記者の質問に答える形で報道官の談話を発表し「中国に対していわれのない非難を行い、中国の内政に干渉し、領土と主権を侵害しており、われわれは強い不満と断固とした反対を表明する。中国側はすでに日米双方に厳正な申し入れを行った」と強く反発しました。

そして「台湾と新疆ウイグル自治区、香港などは純粋に中国の内政であり、いかなる外部からの干渉も許さない」としたうえで、沖縄県の尖閣諸島について「中国固有の領土であり、日米が何を言っても、中国に属するという客観的事実を変えることはできない」と、中国側の従来の立場を改めて主張しました。

さらに「最近、日本側は中国に関わる問題で相次いで消極的な行動をとり、政治的な相互信頼を著しく損ない、双方の関係発展の努力を妨害している。われわれは日本側に対し、両国関係が振り回されず、停滞も後退もせず、大国間の対抗の渦に巻き込まれないよう忠告する」としています。

中国「1つの中国」原則堅持 米が踏み込んだ背景は

中国は、台湾は中国の一部であるとする「1つの中国」の原則を堅持しています。

このため、中国が各国と国交を結ぶ際には、各国に対し、台湾との間で政府高官の往来など政治的な交流は認めていません。

中国は台湾に関する問題について主権などに関わり、一切譲歩することができない「核心的利益」だとしていて、将来的には台湾の統一を目指しています。

一方、アメリカのバイデン政権が台湾で踏み込んだ姿勢を示す背景には、情勢の緊迫化への懸念があります。

アメリカ軍の司令官は先月、議会の公聴会で台湾をめぐる情勢について「今後6年以内に脅威が明白になる」と述べて警戒感を示していて、これを防ぐためにも圧力と抑止力を強めたいねらいがあると見られます。

また、バイデン政権は中国との競争を「民主主義と専制主義の闘い」と位置づけています。

このため、民主主義の理念と価値観を共有する台湾の蔡英文政権への支援により積極的に取り組んでいるとみられます。

共同声明 安全保障面での協力推進の記述

共同声明には、両国間の安全保障面での協力を推進する記述が盛り込まれました。

このうち、鹿児島県西之表市の馬毛島に在日アメリカ軍などが使う施設を建設する計画について、日米両国が「在日米軍再編に関する現行の取り決めを実施することに引き続きコミットしている」と明記されました。

この計画は、現在、小笠原諸島の硫黄島で行われている在日アメリカ軍の空母艦載機の離着陸訓練の移転先などとするため、自衛隊施設を建設する計画で、防衛省はことし2月に、周囲の環境に与える影響を調査するため、法律に基づく環境影響評価の手続きを始めています。

一方、地元の西之表市の市長は、計画に反対を表明して、ことし1月の市長選挙で再選され今月12日に防衛省を訪れ、改めて計画に反対する考えを伝えました。

計画については、先月行われた日米の外務・防衛の閣僚協議、いわゆる「2プラス2」などでも着実に進めることを確認していましたが、首脳会談の共同声明に明記されたことも踏まえ、防衛省は、計画の重要性を引き続き説明しながら、地元の理解を求めていきたい考えです。

また、共同声明では、在日アメリカ軍の駐留経費の日本側負担をめぐっても「安定的及び持続可能な駐留を確保するため、時宜を得た形で、有意義な多年度の合意を妥結することを決意した」と明記されました。

在日アメリカ軍の駐留経費の日本側負担、いわゆる「思いやり予算」は、日本政府がアメリカ軍基地で働く従業員の給与や、光熱費の一部などを負担しているもので、日米両政府は、ほぼ5年ごとに特別協定を更新しています。

政府は去年11月にトランプ前政権との間で実務者による交渉を始めましたが具体的な負担額で折り合いがつかず、バイデン政権に引き継がれました。

そして、ことし3月に特別協定の期限が迫っていたことを踏まえ、両政府は、今年度の負担額を前年度と同じ水準の2017億円とし、来年度・2022年度以降について継続して協議することで合意しました。

今回、共同声明に明記されたことを受け、継続協議とされている来年度以降の負担額については、年内の妥結に向けて、日米の実務者による交渉が今後、加速することも予想されます。

イノベーションの分野での成果文書まとめる

日米首脳会談では、共同声明に加えてイノベーションの分野での成果文書をまとめました。

この中では高速・大容量の通信規格、5Gや6G、ビヨンド5Gなどと呼ばれる次世代の通信規格での競争力を強化するためにアメリカが25億ドル、日本が20億ドルを投資し、研究開発を行うとしています。

また、半導体を含む機微なサプライチェーンの構築や重要技術の育成・保護に向けて協力を行うほか、脅威が高まっているサイバーセキュリティーの分野でも日米が連携して対応していくとしています。

また、気候変動対策では、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする目標と整合する形で2030年までに確固たる行動を取るとして、水素や蓄電池の活用や二酸化炭素の再利用などの技術開発で連携することや、インド太平洋諸国を含む新興国で再生可能エネルギーを普及させるために支援していくことが盛り込まれました。

このほか、新型コロナウイルス対策ではワクチンの公平な分配を目指す「COVAXファシリティ」や「クアッド」と呼ばれる日本とアメリカ、オーストラリアとインドの4か国の枠組みを通じて途上国へのワクチンの供給に向けて緊密に連携するほか、日本の「富岳」などのスーパーコンピューターを活用してより効果的な感染防止対策の開発にも取り組むことで一致しました。